それはとある冬の日のことだった。 星月学園は山奥にあるということもあり、冬には夏緑葉樹達は葉っぱをすっかり落として辺り一面は雪化粧をしている。厚化粧かというくらい。 私はというと、両手の掌を水をすくうように上に向けて現在進行形で降ってくる雪を集めていた。 「集めてどうするんですか?手袋もせずに。ただ冷たいだけじゃないですか」 そう説明すると、呆れた目で見られた。 元々物事にあまり興味を示さない彼の事だから、そこまで反応は求めてはいなかった。彼のリアクションは予想の範囲内だ。 「掌いっぱいに雪を集めてさ、集まった雪が全部とけて水になってこぼれ落ちるのが見てみたいの」 我ながら馬鹿げた考えだとは思ってはいる。 だからといって何も私だってただ馬鹿みたいに集めているわけではない。 「そうしたらさ、私の持ってる汚い物とか雪どけ水が全部洗い流してくれる気がするんだ。なんとなくだけど。……いっそ、雪が私のことなんて見えなくしちゃえばいいのに、なんて?」 なぜだかはわからないけど、この雪の中に溶け込みたいと思った。 「きっと先輩の嫌なもの全部流してくれますよ。それに、雪なんかじゃ先輩を隠すなんてできません。」 「…ありがと」 雪なんか、ね。 雪を過小評価している後輩が可愛くて笑いながらもお礼を言った。 「………先輩、いい顔で笑うようになりましたね」 「…………そーぉ?」 「はい。少なくとも、初めて先輩に会ったときのあの笑顔よりはこっちの方が僕は好きです」 『好きです』なんて口説き文句さらりと言ってくれるなぁなんて苦笑いしながら8ヶ月程前の自分をふと思い直してみるのだけど 「昔はないんだよ。もう過ぎたこと。梓が初めて会った私なんてもういないの」 「過去は振り返らない、ですか?」 「まぁね。星詠み科の生徒は常に前を見るんだよ」 ………なんてかっこつけて言ってみるけど、未来をみるなんて本当は怖い。 だからといって過去を振り返るなんて事もしたくない。 私は常にここにいる。 自分を消したいなんて思ってる人間が自己主張をしているなんておかしな話だとも自分でも思う ふと思い直すと空に向けている手を下におろして梓の手を握った。 「雪はもういいんですか?」 得に驚いたそぶりもなく言う梓。まるで全部わかっている、とでもいうように。 「うん。梓が私の全部受け止めてくれたらいいって気付いた」 「……それらしく聞こえますけど、本音は?」 ………なぜバレた? 「……………手が冷たい。やっぱこれ無謀だった。そして、寂しくなった。…以上の理由から私の手をあっためて貰えないかな?」 「手限定なんですか?」 「…………どういうこと?」 手が冷たいから温めてもらいたい。それだけなのだが、何か不満なのだろうか? そう問いかけようとしたら、視界が真っ暗になり、一瞬遅れて温もりが私を包んだ。 あ、抱きしめられてるんだな、と理解するまでそう時間はかからなかった。 梓が「僕限定で先輩の事あっためさせて下さい」と言うまであと3秒。 その言葉に赤面して私が梓にキスをするまであと――― 手のひらからこぼれ落ちたのは、君から貰ったたくさんの愛情でした。 手のひらからこぼれ落ちた、 さようなら、過去の私 また今度ね、未来の私 こんにちは、現在の私 ―――――――――― 後書 さようなら様に提出させて頂いた小説です。ヒロインは3年生で星詠み科の生徒という設定ですが、あまり関係ないですなww 気が向いたらこの長編でも書いてみようかな…… ありがとうございました。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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