夢小説B

【僕らは自分を映さない瞳に恋をした】
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『(その優しく笑う横顔が好きだった)』

光忠「(特に少し照れたような恋をしているその瞳が)」

『(私はいつだって、彼のその瞳を見つめていたけれど)』

光忠「(その瞳が僕を映すことは、一度だって無かったんだ)」





【僕らは自分を映さない瞳に恋をした】





『なん・・・て?』

鶴丸「いやなに、その・・・主は女性だろう?参考にしようと・・・だなぁ・・・」

モゴモゴと照れながら視線を泳がせている白い人。私がいつもその横顔を見つめていたことなんか、きっと気付いていない。

『・・・女性はね、好きな人から貰えるものなら何でも嬉しいのよ。』

鶴丸「ん?その答え方は狡くないか?彼女が俺の事を好いてくれていなかったらどうなる。」

『例えそういう意味で好いてない相手だったとしても、その気持ちが嬉しいと思うわ?でもそれが好きな相手からだったら、もっともっと嬉しいものだと思うの。』

『ようは気持ちが大事なのであって、その喜びの度合いは向こう次第だから、こっちが気にしたって仕方ないってことね。どうかしら、参考になった?』

鶴丸「なっなる・・・ほど、そうか。そりゃあそうだな。うん、なるほど。」

『・・・』

鶴丸「助かったぜ主!よし、ここは男を見せる所だな!張り切って行くか!!」



『うん・・・ガンバっ・・・てね、鶴丸・・・あなたなら、きっと・・・』

『 (きっと、上手くいくから・・・) 』



彼の瞳に、私はいない。

何度となくその事実を突き付けられて、枕を濡らす夜を何度も繰り返した。それでも私は彼の主で、彼は私が顕現した刀の付喪神様・刀剣男士で、私たちは歴史改変を目論む時間塑行軍と戦わなくちゃならなくて・・・なんて、立場や関係性を頭の中で並べてみても。私の心の中にあるものは変わらない。

鶴丸が好きってこと。

あの明るく振る舞っているのに、ふとした瞬間に年長者らしく大人びた優しい笑みを浮かべる所に心を奪われた。それからは彼を私の刀とは思えなくて、一人の殿方として想いを寄せてしまった。

彼に少しでも好かれようと、出来るだけの努力は全部したつもりだったけれど、それでも成果は無し。彼は私を主としてしか見ていないし、なんなら恋愛感情を持つことすら疑わしいほど、縁の遠そうな性格をしていた。


なのに

それなのに


彼は他所の新人審神者にコロッと恋をした。

私の方がずっとずっと彼を好きだったのに。ずっとずっと努力を続けてきたのに。どうして・・・どうして私じゃ駄目だったの・・・?

その瞳にお互いを映し合う二人を前に、恨みの言葉など口に出来る筈もなく。行き場の無い私のこの想いは、奥歯を噛み締めることで飲み込んだ。



・・・



光忠「・・・主、まだ起きてるかい?」

『っ!?・・・光忠?どうしたの、こんな夜更けに。』

締め切っていた障子から控えめな声がして返事をしたけれど、時間を見て眉を潜めた。いつもなら私が寝ている時間。そこにわざわざ審神者部屋まで会いに来るとは、余程の緊急事態か?

光忠「うん・・・まだ起きてるだろうと思って。その、部屋に入れてくれないかな。」

『それは・・・障子越しじゃ駄目なの?』

光忠「この時間だから大丈夫だと思うけど、他の刀には聞かれたくない話なんだ。」

『・・・』

灯りを点けずに部屋へ通すと、彼は障子をピタリと閉じて、私が用意した座布団に座った。



『・・・』

光忠「・・・」

『・・・話があるんでしょう?どうかしたの?』

光忠「うん・・・主、また瞼腫れてるの?」

『っ!?』

光忠「灯り・・・つけれないのは、そういうことだろう?」

『なっなんの話・・・?』

光忠「鶴さんの恋が、今日等々実ってしまったからね。」

『っ』

光忠「・・・」

気付かれているとは思っていなかった。脈が無いと気付いてからは、この想いを封じてきたし、彼を見るのも辛くて、極力視線は反らしていた。

他の刀にも、私が鶴丸を好きだなんて、気付いている風な態度をとる刀なんて、一振りだっていなかった・・・はすだ。

『(それなのに、どうして・・・)』



何処で気付かれた?と、考えを巡らせている間、私の意識はまた想い人へと向いていた。あからさまな態度はしていないはずだし、贔屓もしていない。いや、だからこそ、本人にも私がまさかこんな感情を抱いているなんて気付かれなかったくらいだし・・・と、自傷の笑みを浮かべた。

『(こんな想いをするくらいなら、もっと明確に好意を示しておけば良かったのかな・・・)』

思わず俯いた時、ミシッと畳の軋む音がした。

あっそうだ。光忠が今、部屋に来てるんだった・・・と、思い出して視線を向けた先。目の前に蜜色の隻眼があって、その美しさに思わず息を飲んだ。

あまりの近さに身を引けば、捕らわれた後ろ首と左手首。続いて降ってきたのは、彼の口吸いだった。



あまりに突然の事に、抗うことも出来ず呆然としていたら、してきた張本人が「あれ?」と、唇を離して首を傾げていた。

光忠「頬を叩かれるくらいの事を覚悟していたんだけど・・・なんだ、あまり嫌がらないんだね。」



光忠「もしかして・・・鶴さんへの想いは、そこまでじゃなかったのかな。」

その言葉に、私は唇を重ねられた事よりも怒りがわいた。

『光忠に・・・!何が分かるのよ!!私のこの気持ちは!私の・・・想いは・・・おも・・・い、は・・・』

何だと言うんだ。伝えることも出来ず、引き止める事も出来ず。私の中だけで生まれて、消えるしかないこの想いは、いったいなんだって言うんだ。

『・・・』

私が言葉を続ける気力を失い、ただまた溢れてきた涙を必死に堪えながら視線を落とすと、光忠に捕まれたその力が強まった。後ろ首と、左手首。彼の強い力で握りしめられると冗談ではなく本当に折れそうだから痛い、止めて欲しい。

そんな「ちょっと待って、こんな空気だけど、本気で痛いから力緩めて」と、言葉には出せないけど落ちこみ思考の頭が強制的に目の前の彼に向いた。

視界に入った眼帯男の蜜色は、灯りのない部屋の中で、うっすらと入る月明かりに反射していた。



光忠「そう?でも、ほら。今、一瞬。鶴さんの事、忘れられたんじゃないかい?」

『え?』

光忠「ねぇ・・・思い出して。僕に唇を奪われた、さっきの一瞬。君の頭の中にいたのは、誰だった?」



光忠「それが僕だったら、良かったじゃないか。きっと鶴さんの事なんて、すぐに忘れられるよ。」

光忠「だって・・・君がなんとも思っていなかった僕に、口吸いされたたけで忘れられるくらいの想いだったって、ことだよね。」

『(彼は、何を言っているんだろう・・・)』

光忠「随分落ち込んでいたみたいだから・・・もう一回、してあげようか。君を慰める為にも・・・ね?」

『んっ!』

私が抵抗しようとも、彼の強行を止められる筈もなく。強引な口吸いは力で抑え込まれ、「もう一回」と言った癖に、覆い被さってきた光忠は、私を抱え込むように抱き締めてきて、何度も何度も逃げる私の舌を追い掛けては吸い付いてきた。

人知れず失恋した夜に、違う男・・・自分の刀だと思って信頼していた男からこんな事をされるなんて。

情けないやら、惨めやら、溢れた涙を止めることが出来なくなって、苦しい息を否応なく絡ませながら熱を受け止めていた。



そんな中にいたのに。何故か私は気付いてしまったんだ。

強引な力とは裏腹に、彼の口吸いが優しいことに・・・



何度も撫でられる唇。擦られる舌先。彼は濃厚に絡ませてくるのに・・・何度となく唇を交わした後に、必ず一度離れて私の顔色を確認するんだ。

いや・・・顔じゃない。

その瞳を。

私の瞳、その瞳に映るナニカを見ていた。確認するように、私の瞳を覗き込む。



『(何を・・・見ているの・・・?)』

光忠「ん・・・ねぇ、あまり抵抗しないのは、どうして?もしかして、そんなに僕との唇吸い、気持ちいいの?」

『!?してるわ!早く退きなさい!!』

光忠「へぇ、でも・・・トロけた顔してるけど・・・」

『勝手なこと言わないで!わ、私は・・・私が好きなのは・・・っ!』

光忠「っ」

続きは言わせないとでも言うように。普段穏やかな表情しか見せない光忠には珍しく、苛立ったような顔をしてまた唇を押し当てて来た。



光忠「っ・・・忘れなよ。君ではない女が好きな奴の事なんて。」

『!』

光忠「このまま僕を・・・僕だけを見ていればいい。今、君を蹂躙しようとしている目の前の男は誰?ねぇ・・・ほら。僕以外の事を、考えれなくさせてあげるから。」



光忠「僕だけを見て」



その言葉を口にした光忠の声は、震えていた。被害者は私のはずなのに、彼の方が傷付いているような顔をしているのはどうしてなんだろう。

『どう・・・して?どうしてこんな酷いことが出来るの・・・?』

光忠「・・・いいよ。例え軽蔑と怒りの色だとしても。その瞳に僕を映してくれるのなら、今はそれでもいいんだ。」

答えてはくれなかったけれど、その哀しみが見える隻眼に、その言葉に。私はさっきまで哀しみに暮れていた自分を思い出す。



想い人の瞳に、自分が映っていない痛みを・・・



『(あぁ、そうか・・・一緒だったんだ。光忠も、私と一緒なんだ。)』

『(ずっと、私を見ていたの?鶴丸しか見ていない私を。自分を映さない、その瞳が自分を映してくれるのを、ずっと待ち続けていたの?)』



光忠「やっと君の瞳が今、僕を映してる。その感情がなんであれ、構わない。僕は君みたいに、諦めきれないよ。何がなんでも、僕を見て欲しい。」

光忠「本体は焼けていて、もう刀としての本分を果たせない僕には、全てが今しか無いんだ。刀剣男士として、人の器を貰った今でしか戦えないのと同じ。この身が自由に動かせる今でしか、僕を見ない君の瞳に映る事は叶わない。」

光忠「今しかないんだ。今、君の目を僕に向けさせないといけない。最初は憎悪でもいい。嫌悪でもいい。だけど、必ず。その瞳を、僕への愛情に変えてみせるから。どれだけ僕が君に執着しているのか、身をもって知ってもらうよ。絶対に逃がさないから。」



光忠「僕が必ず、君を手にいれる。」

光忠「誰にも渡さない・・・絶対に。」




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